整体や鍼治療とは異なるアプローチで、身体本来の治癒力を高めるカイロプラクティック。１２０年あまり前にアメリカで開発された手技療法で、施術者には診断権もあり、レントゲンを撮ることもできます。一方日本では、１００年ほど前に導入されたものの、学問として体系化されることも法制化されることもなく現在に至っています。今回取材した濱口さんはWHO（世界保健機構）が定めている世界基準の資格を取得しています。13年間カイロプラクティックに従事し、患者さんの症状が改善される様を目の当たりにしてきた経験から、多くの方々に施術を広めたいと今年の６月にサロンをオープンしました。

濱口さんは県内の高校を卒業後、愛知県の自動車工場で働いていました、しかし、高知に戻りたいという気持ちが強くなり、そのためには手に職をつけなければならないと考えるようになりました。整体師や鍼灸師の道も考えましたが、有効性が高いカイロプラクティックの分野に惹かれ、名古屋で２年間専門学校に通いました。濱口さんが世界基準の資格を取ろうと思ったきっかけは専門学校時代、授業の一環で、アメリカのカイロプラクティックの学校で学生による解剖実習の授業を受けたことでした。解剖学、病理学、生理学、神経学の基礎医学、化学、物理学の知識を身に着けている学生のレベルの高さにただただ圧倒されました。

日本の学生とのレベルの差を見せつけられた濱口さんは、一度は就職したものの、カイロプラクティックの技術や知識を極めたいと考え、WHOの基準にのっとったプログラムを提供する東京の４年制の専門学校に入り直しました。そこで４２００時間以上のプログラムを最優秀で修了し、WHOのドクターオブカイロプラクティックの資格を取得しました。　日本に約３万人いるといわれるカイロプラクティックの施術者のうち、WHO基準の資格を持っている施術者は８００人程度、高知県では濱口さんを含めて２人しかいません。濱口さんは、資格取得後１３年間東京で働いていましたが、帰高し「ハマカイロプラクティック」をオープンしました。

カイロプラクティックでは神経の機能異常を調整します。全身をくまなく巡っている神経の働きは脳が調節しています。例えば、頭痛、めまい、ふらつきなどを引き起こす自律神経の乱れは、脳がうまく機能していないことが原因の一つとして考えられます。カイロプラクティックでは骨の歪みを矯正することで、神経機能の異常を調整し、脳の機能を改善させるための施術を行います。　濱口さんは問診、筋力検査、触察を通じて、機能が低下している部位を特定します。施術を受けると数年来患っていた肩の痛みが瞬時に消えることもあるそうです。

アメリカでは医療行為とカイロプラクティックの役割が明確になっています。東京でも、カイロプラクティックを補完的に奨励する動きが始まっており、医者がカイロプラクティックの施術者を紹介する事例も少しずつ生まれています。医者は、病気やケガの診断、投薬、手術を行いますが、カイロプラクティックは骨格や神経の機能障害を手技を用いて改善させることから、役割が違います。濱口さんは、今後高知県でも、医師会に対し、カイロプラクティックに対する理解を深めていただくためのアプローチをしていきたいと考えています。　２０２１年にカイロプラクティックの世界大会が日本で開催されることが決まり、カイロプラクティックの分野に大きな変化がもたらされる可能性が出ています。大会の目的は、科学的研究、教育、法制化で参加国が情報交換を行い、カイロプラクティックの基準や職業としての地位を確立することにあります。濱口さんは、所属する日本カイロプラクターズ協会の四国ブロック代表として参加します。そこでカイロプラクティックの地位向上のため、何らかの貢献をしたいと思っています。「医療と連携するためには、まずはカイロプラクティックの施術者の力量向上が必要です」と語る濱口さんの今後の活躍に期待が膨らみます。